形のない足跡

七辻雨鷹(ナナツジウタカ)。マイペースで子供っぽい人のまた別のお話。「ようこそ、カオスへ。」

夜の底に深く沈む

文学部OB誌「紙+ペン=可能性」に寄稿した作品です。

BURNOUT SYNDROMESの「i am a HERO」

BURNOUT SYNDROMES ~i am a HERO~ - YouTube

から着想し、歌詞を一部引用しました(改行して下げている部分)。

 

 

 目を開けるともう夜だった。遠くから国道を走る車の音が聞こえる。あまり交通量が多くないように思えるということはもうかなり遅い時間なのだろう。私は枕元に置いた目覚まし時計を掴んだ。開けっ放しのカーテンの隙間から差し込む街灯の光に当てる。   23:38:12  私は無機質なデジタル数字の点滅を数回眺めて元の場所に置いた。腕で光を遮って目を瞑る。

 

  生憎と私は貴方のヒロインじゃあなかったよ、ヒーロー。

 

 初夏の日差しは木々に新緑の炎を灯していた。  100m走を走り抜けてクラス席に戻ってきた貴方に、私は先ほど自販機で買ってきたばかりのスポーツドリンクを突き出す。ありがとう、と短く答えて貴方はすぐにキャップを外して喉を鳴らした。ペットボトルの中の半透明の液体が陽光に照らされながら揺れていた。 「ただ今の各級団の順位を発表します‪──一位、青級。」 周囲からわあっと歓声が上がる。太陽に背を向け、彼は私の方を見てにやりと笑った。 「逆転とはやるね、流石だよ、ヒーロー。」 「まあな。俺はこれしかできない代わりに、これだけはやってやろうと思ってさ。」 そうなんだ、と返したきり言葉が尽きる。私は貴方がタオルで汗を拭うのを黙って見ていた。声援が咲き溢れたグラウンドのここにだけ空白がある。 「これ、ありがとな。助かった。」 まだ中身の半分残ったペットボトルを見せて、貴方は空白に私を残したまま喧騒に身を消した。

 まだ疲れの残る体を起こして部屋を見渡す。窓から入る街灯の光が色褪せてモノクロになった部屋の中を照らしている。酷く喉が渇いていた。冷蔵庫の中に欲しい物は無かったはずだ。既に条例では補導対象になる時間だが、コンビニに出掛けよう。私は薄手のパーカーを羽織り、小銭入れをポケットに押し込むと、家族を起こさないように外に出た。

 月の無い夜だ。街は夜の底に沈んでいる。街灯の灯りを繋ぐように五分ほど歩くと、コンビニの看板が煌々と点いているのが見えた。入り口付近にたむろする不適切な青少年(ヤンキー)を脳内で殺して店内に入る。昼間にグラウンドで聴いた曲が流れていた。少し前まで興味の無かった流行の音楽が今は少しだけ染みる。  貴方に渡したのと同じスポーツドリンクが目に付く。貴方の笑顔が脳裏に浮かぶ。あれは確かに私だけに向けられたものだった。  けれど、それを思い出したところでもう仕方が無いのだ。  わたしはホットコーヒーを掴んでレジへ向かった。淡々と会計を済ませ、レシートの数字に目をやったところで思考は内面に戻る。  明日から何を考えて生きていこうか。   生きている理由は?   死にたくないから。

 片付けを終えて、生徒の多くは下校していた。私は部活の仲間と明日の予定を話して少し遅い時間に教室へ荷物を取りに向かった。誰もいないと思っていた教室から声がしてわたしは立ち止まる。

貴方の声と、それから少し遅れて、クラスメイトのあの子の小さな声。  聴いてはいけないとその場を離れる前に、その会話は私に突き刺さった。貴方が私ではなくあの子を選んだことは確かだった。

 まあ、仕方ないよね。

 不安定に揺れる気持ちをそんな言葉で抑え込んで廊下の突き当たりのトイレに逃げ込んだ。個室の鍵を閉める。換気扇の音が煩い。こんな気持ちはわからない。人感センサー式の照明が消えるまで、いや、消えてからもしばらく私はそこにいた。

 打ち上げに行かない連絡をして、下校を促す放送の後に荷物を取りに行った。今度こそ教室には誰もいなかった。

 足早に家路を急ぐ。あの空白が私の周りにだけいつまでも存在していた。

 

 

 熱いコーヒーでわずかに喉を潤し、妙に冷えた指先を温めながら家へ帰る。来た道をただ戻る。

 

  明日になれば何かが変わる。

  そんな予感がしていた。

 

  スマートフォンに祈る。

  パスワード下四桁は変えないまま、貴方を忘れよう。

 

四月十二日。初めて貴方と話した日を、私は何度もまじないのように入力していた。それももう意味はない。

 もう終わったことなのだから、明日からはまた何もなかったかのように生きていかねばならない。明日になれば、今日だったものは勝手に終わって、過去になっていくのだ。私は玄関のドアを静かに開けた。家族は誰も気づいていないらしい。

 自室の戸を開け、手探りで壁にあるスイッチを押して照明を点けた。コーヒーを机の上に置いてベッドに横になる。枕元の目覚まし時計を手に取る。

23:59:57

23:59:58

23:59:59

 

00:00:00

 

 私は目を閉じた。そして瞼の裏の深い闇の底に身を沈めた。

 

 

 再び目が覚めたとき、目覚まし時計は三時過ぎを表示していた。

 先ほど目が覚めた時と気分は然程変わらなかった。部屋は相変わらずモノクロのままで、思い出すのは昼間のことばかりだ。日付が変わるだけで、全部過去になって終わっていくなんて、そんなことはあるはずもないのに、なぜ考えていたのだろう。

 簡単に終わって忘れられるはずなんてなかった。

 机の上のコーヒーを手に取って網戸を開ける。街は先ほどにも増して静まり返っていた。

 

  コーヒーは冷めた。

  一口で棄てよう。

 

  そのあとで泣こう。

 

 窓辺に乗り出して遠くの空港で飛行機の灯りが点滅にしながら遠ざかるのを目で追う。私が選ばれることは無いとどこかではわかっていた。

 何をしても、誰といても、浮くことがない、居て当たり前の存在である代わりに、誰も私を特別に思うことは無い。大体誰とでも話せるし、大体のことは人並みにできる。ずっとそうだ。私には特筆すべきことが何もないのかもしれない。

 

  一、二、三で私は風景。

  産まれた瞬間から

  死ぬまで脇役。

 

  だけど。

  あのね?

 

  本当は今も

  発癌性の夢を見ている。

 

 いつだって諦める理由なんか幾らでもある。けれど、全部が全部、理由があれば諦められるようなものではない。だから私は少しだけ夢を見ていた。叶わないものばかり追っていたら、いつか身を滅ぼしてしまう。そんな発癌性の夢を見ている。

 カフェインが今更聞いてきたのか、今夜はもう眠れそうにない。明日は遅刻しようと決めて、私は冷めたコーヒーを一口飲んだ。

私が死ぬ時が来たら

個人誌2冊目「かなしみの速度」より

私が死ぬ時が来たら

 

私が死ぬ時が来たら
あなたにはさよならを言わない
さよならのかわりに 風に託けて
本当の理由を教えよう

私が死ぬ時が来たら
あなたにはさよならを言わない
さよならのかわりに あなたの幸せを祈って
エンドロールにあなたの名前を探す

私が死ぬ時が来ても
あなたにはさよならを言わない
あなたの顔を見たら
あなたと言葉を交わしたら
きっと寂しくなってしまうから

私が死ぬ時が来たら
あなたにはさよならを言わない
だからどうか笑ってください
こんな私の人生もハッピーエンドになるように

ターミナル(小説)

 壁一面に本棚が並んだ小さな部屋でわたしは目を覚ました。
 ここはどこなのだろう。膝を抱えて辺りを見渡す。積み上げられた本にはギターが立てかけてあり、ところどころ雪崩が起きている。その間に、空になった薬のシートがいくつも転がっていた。
 わたしは今まで何をしていたのだろうか。ふと考えて気づく。思い出されるはずの記憶が無い。わたしは、わたしは誰なのだろう。考えてもわからない。
 まだぼんやりとした頭で膝立ちになり、わたしは本の雪崩の中から一冊のノートを拾った。深緑の無地のノートには「作詞ノート」と書いてある。思考を放棄したわたしは中身を読むことにした。
 散り散りの言葉がやっとつなぎ合わされたような詞ばかりだった。言いたいことを幾重もの比喩で隠したようなもどかしさを感じる。退屈したわたしはページをぱらぱらとめくり、最後のページに目をやった。

「頑張りなさい」「やればできる」
背中を押す声 ここは崖っぷち

上手く歩けなくて 世界が回って
膝を抱えていたら 遠心力に弾き出された
世界の中心には誰もいないくせに
こんな歌を歌ったら少しは笑えるかと思ったの
笑いごとになるかと思ったの

どうしたら良かったの
最初で最後のSOS 聞こえて
「自業自得だ」「過去にすがるな」
追い立てられて 一人は独りになる

走り出す人々を 見送るだけの今日が終わればいいのに

上手く歩けなくて 世界が回って
膝を抱えていたら 遠心力に弾き出された
世界の中心には誰もいられないから
こんな歌ももう終わり
世界の縁(ふち)の小さな出来事


 読むうちに目の前が滲んで文字が見えなくなり
そうになった。この人はまるで自分と同じだ。手を差し伸べられたらいいのに。
 脳裏で何かがほどけた。
 そうだ、これはわたしが書いたのだ。
 わたしは記憶の海に投げ出される。

 高校3年生。皆がそれぞれの道を選ぶ中で、わたしは取り残されていた。毎日をこなしていくのに精一杯で未来のことなど考えられない。日々を食べ尽くしていくうちにいつしか周りを追いかけるエネルギーは消えていた。動けなかった。
 わたしは必死で叫んだ、どうしたらいいと必死で。けれど、いつも返ってくる言葉は同じ。
「頑張りなさい。」「自業自得だ。」
 本当はそんな言葉で終わらせてほしくなった。終わったことにしてほしくなかった。先生や親の諦めたような視線が焼き付いている。
 もうどうにもならないのだと自室に籠り、大好きなギターを手にして曲を作ろうとした。けれど、気持ちに余裕がない状態で浮かぶメロディは無い。「もう全部忘れたい。」と、わたしは自分の感情を歌詞として書きなぐった後に病院で貰った薬を全て飲んだのだった。

 親も先生もわたしを助けてはくれなかった。けれど、最後に自分を見捨てたのは自分だった。

わたしはギターを掴んで、お気に入りのコードを鳴らした。整ったメロディではない。それでも歌う。初めて自分の感情を表現した歌を。
不思議と言葉はつかえない。ノートにある歌詞を歌い終えて、わたしはその後にこう付け加えた。


だけどどうせ終わるなら
ハッピーエンドじゃなくても
笑い事にできるような終わり方にしたいから

上手く歩けなくて 世界が回って
膝を抱えていたら 遠心力に弾き出された
世界の中心には誰もいないから
何処に居たって問題じゃないのかもね
自分だけは自分を見捨てないために
何もかも笑い事にしようよ


 わたしは薬のシートを拾い集めてゴミ箱に捨て、部屋の外に出た。いつかすべてが笑いごとになる日のために。

東京を知らない君へ

中学二年生の冬の社会科見学のレポート(形式は自由)として書いた小説です。

当時のわたしはチャットの語尾に☆をつけるような中学生でした。使われている記号が厨二っぽいのはそのためです。ご容赦くださいませ。

 

 

†前夜

紅茶を入れようと、ペンを置く。外を見やると外では雨雲がすごい勢いで流れていた。明日は晴れるだろう。晴れて欲しい。明日は社会科見学。早る気持ちを抑えられずに君への手紙を一日前倒しで書き始めた。遠く九州からこの東京へやって来て、大学病院の病室で本を友に過ごす、君。

 いつか退院したら遊びに行けるように、私は、東京を紹介しようと思う。

 

†出発

 社会科見学当日。よく晴れて社会科見学には絶好の日和であるのだが……私の足どりはあまり軽くない。

 なぜか。私はかばん症(川上弘美の『あるようなないような』による。普段からやたらかばんに物を入れる癖。)だからだ。筆記用具なら、シャープペンシルと消しゴムとボールペンと万年筆と定規と蛍光ペンとペーパーナイフと……といった調子でいろいろ入れてしまう。今日もしおりの持ち物以外にほっカイロとタオルとノートと手帳を持ってきている。しかし、それでもいつもより軽いから何か忘れ物をしている気がして不安になるのだ。

 それでも折角の社会科見学。忘れ物は無いと信じて楽しもう。

「いってきます。」

 しかし、最寄り駅の改札で私は気づく。

「あ。定期、忘れた。」

だってしおりに書いてなかった!

 

靖国神社遊就館

 何とかお土産代を削って学校に辿り着き、社会科見学は始まった。

 まわるポイントは三つ。そのうちの一つが神社・仏閣で靖国神社遊就館である。

 電車にしばらく揺られて、乗り換えもした。地図を見ながら九段下の駅から歩き続けると、建物と同じぐらいの高さがある鳥居に出くわした。建物を見る前に鳥居だけで気圧されてしまう。鳥居の赤が鮮やかに見えた。

 鳥居の大きさに負けないくらい本殿に手を合わせる。政治家の参拝で話題になる靖国神社。平和と靖国問題の解決を祈って後にした。

 遊就館の拝観料は300円と調べていたが、券を買おうとしていると、受付の人に声を掛けられて、券を貰った。渡された券には中高生・無料と書いてある。お礼を言って中に入った。(後で知ったことだが、受付の人は私たちを修学旅行生だと思ったらしい。遊就館では修学旅行生は無料になっているのだ。)

 遊就館靖国神社の敷地内にある戦争資料を扱う資料館だ。

焦げた様な跡がある日の丸、歪んだ戦闘機の破片、ボロボロの帽子。ふと目をやった特攻隊員の遺書。生きて帰れないと知りながら、案ずるな、と書いた手紙は大きくなった姿を見られなかった、幼い娘への思いが綴られていた。手紙を書いた人物を全く知らない私でさえ、読んでいて悲しくなる。読んだ家族はどんなに悲しかったろう。大きくなったわが子の姿さえ見られなかったこの人が命を捨ててまで守ろうとしたものは、一体……。考えたら終わらなくなりそうで頭を振った。

 感想を記すノートを見つけて鉛筆をとる。

「特攻隊員の遺書を読みました。どうしてこんなことが起きてしまったのか私たちは今、考え直す必要があると思います。

           東京・中2・女子」

 お土産が何かないかな、と見渡してみるが、ここでしか買えないものはあまりない。唯一限定と書いてあるのはふわふわという自衛隊缶詰パン。しかし食べ物は禁止。どうするか。「これ、かわいい!」

目についたのは紙せっけん。桜の模様のケースに入っている。全く遊就館とは関係ないがこれにしよう。

 思いつきで買ってしまった紙せっけんは私のかばんの中で眠っている。君はやはり呆れるだろうか。

  

靖国神社遊就館

靖国神社の敷地内に

ある戦争資料館。

多くの戦争資料が

展示されている。

 

年中無休 9:00~16:30

♪おすすめポイント

 資料が詳しい。戦闘機や汽車がみられる。

 

科学技術館

 遊就館を後にし、次に向かったのは科学技術館。見たり触ったり、体験しながら科学技術を楽しく学べる博物館だ。

 ここでは東京メトロのパスを見せると一〇〇円割引された。

 社会科見学は平日。しかもまだ午前中。たくさん楽しめる! はずだったんだが……。

見渡す限りの小学生と小学生と小学生と、時々中学生。考えることは皆同じ。どこも込み合っていてとてもじゃないが楽しく体験してはいられないだろう。

作戦を変更して私たちは先に昼食をとった。そして、ほっと一息入れてから、昼食中の小学生たちを確認して見学に出た。

実験、発電、シャボン玉に迷路。テーマパークのような入り組んだ建物の中を冒険した。

目の錯覚を学ぶ歪んだ部屋では吸い込まれそうになったりフラフラしたり壁が動いたり、驚かされた。

放射性廃棄物の最終廃棄シミュレーションゲームではつい熱が入った。ランキング上位でもスコアは八〇万点台。そこに九六万点で断トツの一位を叩き出してしまった。

一通り見学を終えて、お土産を買いに行く。

目についたのはいつか失敗して、リベンジを望んでいた結晶作りキットだった。白い結晶を作るキットを買った。しかし、作るのに必要な五〇〇ccの缶が見つからず、それは私の勉強机の引き出しの中でまだ眠っている。

出発間際にほかの班と会って、割引のことを教えてあげた。

「これ見せると一〇〇円も浮くよ!」

「了解! ありがと♪」

出口にある自販機で炭酸ジュースをみんなで買った。一人が「炭酸飲みたーい。」と言い出すとなぜか私も炭酸ジュースが飲みたくなって、飲み物は買わないつもりでいたのに買ってしまった。爽やかな刺激が歩き続けた疲れを弾き飛ばす。しかし、階段を駆け下りたら炭酸はぷしゅっと音を立ててかなり抜けてしまった。

  

科学技術館

 見たり触ったり楽しく体験しながら科学に親しめる博物館。子供から大人まで楽しめて家族連れにも人気。

 

水曜日と年末年始はお休み。 9:30~16:50

♪おすすめポイント

一日中楽しめる。

科学で遊べる

テーマパークの

ような博物館。

 

†NHKスタジオパーク

 最後は渋谷のスタジオパーク。地下鉄に乗ろうと思ってポケットを探る……切符が、ない。さっきはしゃいで落としたらしい。そこから交通費は自分で賄うことになった。

残額はわずか。定期は持っていない。つまり、一五〇円残しておかなければ、家に帰れなくなるということだ。

 社会科見学最大のピンチ到来。

 泣く泣く二、三枚しかない一〇〇円を使って切符を買った。

 しばらくまた電車に揺られ、気づけば渋谷の雑踏の中に佇んでいた。

「都会……。」

修学旅行生のように呟いて、空を見上げる。ビルが空を覆い隠さんばかりに伸びている。東京名物高層ビル群。君も見たら驚くんだろうなぁ。君のいる病院の周りはあまり高い建物がないから。

 地図を見て、建物を一個一個確認しながら進む。

人、人、人。いつかテレビで見たような、渋谷だった。

 スタジオパークはドラマの衣装が展示されていたり、映像資料のアーカイブスが見られたり、アフレコ体験ができたりする、体験型の放送テーマパークだ。

 アフレコ体験ではおじゃる丸になって歌った。実際に自分たちで吹き込んだアニメーションを見てみた。

「ほれ、おじゃっ!」

腕を振り上げるおじゃる丸が私の声で叫ぶ。思ったよりタイミングも合っていて、いつももとは違うバージョンのおじゃる丸を見ているようだった。

 「ダーウィンが来た!」のコーナーでは顔認証でどんな動物に似ているかを知ることができる。カモノハシに八〇パーセント似ているといわれた。嬉しくない。君はどう思う?

 ソチ五輪体験コーナーでは、カローリング(室内カーリング)とバーチャルでのスキージャンプを体験した。このカローリングというのが難しい! 行き過ぎてしまって狙った通りに行かない。お年寄りに人気のスポーツとだけあって、本当に力が要らないのだ。バーチャルでのスキージャンプはゴーグル型の端末に映像が映し出される。かなり迫力があって面白かった。

 お土産は、資金不足によりなし。

 

☯NHKスタジオパーク

ここにしかない放送体験@NHK

体験型放送テーマパーク

 

第三月曜日、三月一七日

・三一日は休み

10:00~18:00

おすすめポイント

すイエんサー!」

と叫んだり、

「ガッテンしていただけましたでしょか?」

「ガッテン!ガッテン!」が

できたり、一度はやってみたいことが

できる点。

 

†無事帰還

帰りは乗り越し精算をして、渋谷から一本。駅に着くと先生たちが待っていた。全員確認が取れると先生に名簿から顔を上げた。

「それでは、クイズです。」

まさかちゃんと学習してきたかを確認するのでは? 何を見てきたんだっけ……。ええっと……。

「明日は何の日でしょう?」

虚を突かれて、きょとんとしてしまう。明日は?ま、まさか、ばれんたいんでー?

「そうです。明日はチョコレートなど持って来ないように。」

先生、社会科見学のシメ、全然社会科見学と関係ないじゃないですか。なんだかもやもやすると君だってそう思わないかい?

メトロでの出会い

東京メトロ創立十周年記念ショートストーリーコンテストに応募した作品で、中学三年生のときの作品です。

 

 

 久しぶりに来た大手町の駅は乗り換えの人であふれている。私もその一人だ。

 「スカイツリーに行こう!」

みさきが私を誘ったのはつい昨日のことだった。計画性が無いのはいつものことだけど、それにしても突然だった。 混んでるらしいけど行けるの、といった私にみさきはもちろん下までだけど、とぃたずらっぽく笑った。8月から行く、留学のための準備で慌ただしい生活を送っている私を元気づけるつもりでいるのだろう。みさきなりの思いやりだと思う。

「Excuse me.」

階段へ向かって歩き出した私の後ろで声がした。振り返ると背の高い外国のおじさんが立っていた。ヨーロッパかなんかの人だろう。

「Could you tell me the way to the Tokyo Sky Tree?」

確かに私に向けて言っている。聞き取ることが出来たのは勉強の成果だ。でもしゃべることに関してはあまり自信が無い。誰か他の人に聞けばいいのに、と考えかけて私ははっとする。これから留学に行くのにこれくらいできなくてどうするんだ、私。これから先、東京オリンピックの時には外国人に道案内してあげるんだ、とか言ってたのに。

地下鉄一つ乗るのに、ここが外国だから困る人がいる。駅員さんに聞けば教えてくれるのに、この人は私を頼ってくれている。

大きく息を吸って、答える。

「Actually, I’ll go there too. Let’s go together.」

 それから、私はつたない英語を使っていろいろなことを話した。彼はエリックといった。エリックは自分の国のことをいっぱい話した。私は、みさきのことを話していた。年は離れていても、私たちは友達みたいだった。

 地下鉄一つで誰かと出会える。

「みさきー!」

みさきは駅で待っていて、エリックとはそこで別れた。

 これから、もっといいことがありそうだ。

「一つになれないならせめて二つだけでいよう」

SCHOOL OF LOCK!の企画で「一つになれないならせめて二つだけでいよう」をテーマにした作品を募集した際に応募した作品です。当時中学三年生だったと思います。

 

夕闇の中に光が一つ 取り残された教室

この世界に自分たちしかいないみたいで

何度でも踊って 何度でも笑って

時間なんてとっくに過ぎたと思っていたのに

 

呼びかけても届かなくて 遠くなると寂しくなる

すごく近く 手が触れたりして 距離が全然わからないよ

 

少しだけ前の話 二回くらい前の冬の話

冬はまた巡ってくるけど この季節はもう巡ってこないから

暖かい部屋と凍てつく外と 幻と現実 繰り返すみたいに

朝の張りつめた空気が 人の声で割れるみたいに

一人君を見ていた季節は過ぎ去った

 

はっきり言わないくせに 思わせぶりなことばかりするから

今でも君から目が離せないだけだよ それだけだよ

 

少しだけ今の話 少しだけ先の私の話

好きだなんて言えるほども 君のこと思ってないから

伝えても 届かないけど 今更ながらわかったことがあるから

ただ君とずっと話せたらいいって それなら友達でいいって

もうわかってるから 何も言わないでよ

噂は二つ 真実は一つ ただの片思いです

たとえ今 どんな噂が流れても

 

流れても

 

恋じゃないから 両想いとか片思いとか ないのかもしれないけど

君も同じように思っていることを願います

ターミナル(詩)

優等生はやめた
というより所詮は偽物だった
それなら人間をやめたい
なりたいものもないけれど

 

「頑張りなさい」「やればできる」
追い風に転んで 空を見る
迫り来る雨雲 青空は向こう側にしかないの?

 

上手く歩けなくて 世界が回って
膝を抱えていたら 遠心力に弾き出された
世界の中心には誰もいないくせに
こんな歌を歌ったら少しは笑えるかと思ったの
笑いごとになるかと思ったの

 

どうしたら良かったの
抱えていたものは全部がらくた
私を見つけて
最初で最後のSOS 聞こえて

 

「自業自得だ」「過去にすがるな」
追い立てられて 一人は独りになる
走り出す人々を 見送るだけの今日が終わればいいのに

上手く歩けなくて 世界が回って
膝を抱えていたら 遠心力に弾き出された
世界の中心には誰もいられないから
こんな歌ももう終わり
世界の縁(ふち)の小さな出来事

 

だけどどうせ終わるなら
ハッピーエンドじゃなくても
笑い事にできるような終わり方にしたいから

 

上手く歩けなくて 世界が回って
膝を抱えていたら 遠心力に弾き出された
世界の中心には誰もいないから
何処に居たって問題じゃないと思いたい
自分だけは自分を見捨てないために
何もかも笑い事になる日のために

幽霊からの手紙

拝啓
 暦の上ではとうに秋ですが残暑に陽炎が揺らめいています。いかがお過ごしでしょうか。はじめまして、私は幽霊です。名は河原健人といいます。普段はあなたのご近所の団地の一室に居りますが、そろそろ夏も終わりですので最後に涼しい手紙でもどうかと思い、こうして筆をとりました。
 ところで、あなたが美しいと思うものは何ですか。
 突然の質問でごめんなさい。でも僕は美大生だったのでこうゆう質問が好きなのです。
 僕が美しいと思うのは、ミロのヴィーナスや、昔の写真に映る人の若さです。空へ続く階段や向こう側のない扉など、建物の一部が残されてできるトマソンという芸術も好きです。つまり、僕が言いたいのは、失われたものは美しいということです。あったはずのものが今はない。というのは無限の可能性を秘めていて、綺麗だと思いませんか。
 僕はその綺麗なものになりたかったのです。だから僕はあの日、何の前触れもなしに団地のベランダから飛び降りたのです。
 けれど僕はこうして幽霊として残ってしまいました。失われたのは命だけ。僕は綺麗なものになれず、こうして成仏できずに彷徨うばかりです。でも、この手紙を書いたことでどうやら僕も成仏できそうです。僕はこの「綺麗なもの」の話をだれにもできなかったことが未練で幽霊になったようなので。読んでくれてありがとうございました。
 ああ、もう時間だ。
 まだ暑い日は続きますから、熱中症でうっかりこちら側に来ないようにご自愛ください。
 今度こそ綺麗なものになれるように、さようなら。

               敬具

線香花火からの手紙

拝啓
 残暑の厳しい日が続いていますが、お変わりありませんか。わたくしはあなたの家の近くで売られている線香花火です。このまま夏が終わってしまっては困ると思い、お手紙を差し上げました。
 というのも、わたくし売れ残ってしまえば、処分されるか、値引きされて雑多に積まれるかどちらかなのです。それはとても御免です。線香花火である以上、闇に火花を咲かせて散りたいではありませんか。
 人間の世界では、どれだけ長く線香花火の火の玉を落とさずにいられるかを競うようですね。長く、かつ華やかに、なんて、まるで人間の求める人生そのもののようにも思えます。しかし、線香花火界では少し違います。わたくしたちにとって大事なのは、いかに人間の期待を裏切るタイミングで火の玉を落として、あっと言わせることです。一生に一度、火がついた時が勝負で、鮮やかに人を驚かせることが粋なのです。だから、小さな火花ですぐに消えてしまう線香花火も決して劣っているわけではないのですよ。
 どうですか、あなたもそんな生き方をしてみませんか。一生に一度、火がついたときを逃さず、長く華やかでなくとも、人をあっと言わせるような生き方。悪くないと思いませんか。
 わたくしもそんな生き方をしたいのです。どうです、線香花火、一本買って行かれませんか。

                敬具

八.美冬と真雪-8732

 いつの間にか真雪は美冬を見ていた。そこにいる「美冬」は真雪ではなく美冬だった。真雪は宙に浮かぶ光の玉に姿を変えていた。
「あたしもう行かなきゃならないんだけど、一緒に行く? ちょっと早いけど。」
「いや、息上がっちゃって、ゆっくり歩きたいから先行って。」
美冬は咲季の誘いを断り、彼女を見送ると、真雪の方に向き直った。
「ありがとう。死者には運命を変えることはできないから、真雪が私を追い抜くときに一度だけチャンスをくださいと神様にお願いしたんだ。ヒントを一つだけ教えて、私と妹をほんの少しの間だけ入れ替えてくださいって。私はずっと、運命を変えることができずに、ありがとうを言えずに苦しかった。でも、それもこれで終わりだ。ありがとう、真雪。」
美冬の穏やかな口調に心が安らぐ。しかし、同時に真雪は気づいてしまった。
「元に戻ってしまったら、『美冬』の中身がお姉ちゃんになったら、運命が変えられないなら、お姉ちゃんは死んじゃうんじゃないの? もしかしたら、もうしばらくわたしのままなら死なずに済むんじゃないの?」
なだめるように、美冬は静かに首を振った。
「一番大事な世界のルールは変えてはいけないんだ。神様と約束をした。」
「でも……わたしは一緒に生きたい。お姉ちゃんの人生がこんなところで終わっていいはずない。あのトラックの運転手もこんな過去もわたしはまだ許せない。神様なんかどうだっていい。」
真雪は露わになる感情を止めなかった。今までそれを覆っていた諦めに近い気持ちは可能性の前に吹き飛んでいた。過去を乗り越えた振りをしてここまで来たが、本当はまだ受け入れきれていないのだ。不安な気持ちを必死に抑えながら真雪は美冬を見つめる。
「これは私の人生だよ。何度も何度も記憶を反芻して、そのたびに後悔をしたけれど、それ以上に幸せだったんだって気づいた。ここで終わったところでそれは変わらない。色んな人のおかげで生きるに値する人生だった。それを無理に延ばそうというのは、無意味だよ。」
無意味。言葉の無機質な響きが心に重く伝う。何も言えない真雪に美冬は続ける。
「私の分の人生を生きる必要なんてない。もういいよ、好きに生きなよ。だって、私と真雪は別の人間なのだから。」
 やっと長い夢から目が覚めた気がした。真雪はずっと姉を追いかけて生きてきた。姉は憧れの存在でいつも近くにいたから。姉がいなくなってからはその足跡を辿ってきた。存在したはずの、姉の未来をこれからも辿るつもりだった。そうすれば姉がまだ近くにいてくれるような気がしていた。そうすることが、姉の分まで生きるということだと思っていた。けれど、姉と自分とは違う。
「もう時間だ、行かなきゃ。今までありがとう。」
 美冬は止める間もなく横断歩道に駆けていった。その横断歩道には暴走したトラックが近づいていた。

                  *

 真雪が次に気がついたのは、講義室の椅子の上だった。時間を確認しようとポケットからスマートフォンを取り出す。青い無地のケースは紛れもなく自分のものだ。
16:01 9月7日 金曜日
眠ってから一時間ほどが経過していた。みんな部活の方の準備に行ったのだろう、教室にはあまり人がいない。真雪はまだぼんやりとした頭で記憶を探った。信じられないようなことばかりが記憶に残っている。もしかしたら全て夢だったのかもしれない。そんなことを考えながらスマートフォンのロックを解除する。
 ホーム画面の背景になっていたのは、家族旅行で行った北海道で撮った美冬と真雪のツーショット写真だった。ラベンダー畑を背に麦わら帽子を被った二人が笑顔で寄り添っている。それは、事故で失われたはずの、そして、美冬になった真雪が自分宛てにLINEで送った写真だ。胸の奥を掴まれるような苦しさはもうなかった。
 長い夢から覚めて、髪を解くと真雪は立ち上がった。