形のない足跡

七辻雨鷹(ナナツジウタカ)。マイペースで子供っぽい人のまた別のお話。「ようこそ、カオスへ。」

クリスマス号 巻頭言

街は落ち着かない子どものようで
人々は皆浮き足立って
あまりに幸せそうだから
きっと僕も笑っている
きっとあなたも

何でもない凍てつく冬の日が
誰かが幸せになる日になって
もう2000年以上経つ
神も救世主も僕はあまり信じないが
今日くらいは感謝しても良いんじゃないか

今日だけは世界が平和であれと願う人々
願うだけで何もできやしないが
あなたよ 幸せであれ
それだけは僕にも叶えられるはずだ

メリークリスマス
囁いたツバメが飛び去るまでは
祈るより先に行動するべきだ








最近見たもの読んだもの聞いたものにかなり影響されたように思います。
特に、さだまさしの「遥かなるクリスマス」。

文化祭号 巻頭言

黒歴史は鮮度が高いうちに積極的に晒していく所存です。一足先にこちらにアップします。

言葉の色がぶれていて、その上深夜テンションそのままなので、これを書いたときの自分を3発ほど殴りたい気持ちで一杯です。



巻頭言​

言葉はただの言葉だ。
意味を持つ音の連なり。

それがあるとき力を持つのだ。
その響きの奥に見えないものを宿して
その文字の向こうに知らない景色を見せる。
その言葉はわたしと誰かに灯る。

震えるのは本当に寒暖差の所為なのか。
感じたものの温度が冷めないように
醒めないように
私を呼んだ言葉で
今度は私が貴方を呼ぶ。
「ようこそ、カオスへ。」



QOOLANDというバンドの『反吐と悪口』という曲の歌詞にある「俺と誰かに灯るなら」という表現にヒントを得て「灯る」という言葉を使いました。


持っている部誌の巻頭言を見返したら、先輩方のセンスある言葉が並んでいました。わたしもそれを目指していたはずだったのですが。



七辻雨鷹

Business

最近(3月)の作品です。手直ししたけどあまり納得いかず……。OLにならないと書けないのかもしれないですね。何とか良くしたいのでアドバイスをお願いします!



 夜の街は原色のネオンサインが溢れ、影はその色を一層深くしていた。日付が変わるまでにそれほど時間はない。既に人通りは減り始めている。
 わたしはとうに人気のない会社を出て、バス停へ向かった。街灯が路面に白い光を叩きつけていた。辺りには自分の足音だけが響く。国道の向かい側のバス停へ行こうと信号を待ちをしていたときバスが目の前を通り過ぎた。時計に目をやる。11:23。たった今逃したのが、駅への最終バスだったらしい。駅まで歩けば30分はかかる。今から急げば乗り換えの駅までは行けるかもしれないが、乗り換え先の路線の終電に間に合うかどうかはわからない。途方に暮れて一人、ぼんやりと向かいの歩道の植え込みを見つめる。
 無茶な仕事のせいでこんな時間になってしまった。次から次へと仕事が舞い込み、息をつく間もない。ようやくほっとするのは仕事が終わった後で、疲れ果てて何もできない。
上司が来たのは、昼過ぎに指示された資料を定時を過ぎてからやっと作り終えたころだった。
「指示したものと違う。」
上司がそう言って指したパソコンのモニターにはつい先ほどできあがったばかりのグラフがあった。
「データが古い。これで作り直すように。」
渡された紙の束には数字が延々と連なっていた。明日の朝までに、とだけいって彼は帰った。デジタルデータで渡してくれないのもいつものことだ。何も考えず、考えないように数字を打ち込む。
 嫌がらせにはとうに慣れたつもりでいる。必要とされていないことなど、嫌われていることなどとうの昔に気づいている。下らない揚げ足取り、一人だけ呼ばれない飲み会、お局さんからの悪口。全部、全部日常だ。既視感さえ覚える毎日に非日常への出口などない。
 気づけば駅とも会社とも違う方へ歩きだしていた。あてもなくネオンサインから遠ざかっていく。時計を見ると日付が変わっていた。出勤までの時間を考えると家に帰っても休めそうにない。
 生きるために働くのか、働くために生きるのか。
 いつか見かけたそんな言葉が脳裏をよぎる。働けば生きている。生きていれば働く。何のために?
 そのまま知らない団地の階段を上る。
 誰に嫌われても、誰にも必要とされなくても生きていくつもりだった。都会に出るときに心に決めたはずだった。でも、いつからだろう、自分で自分が嫌いになった。お金も仕事も生活も、もう全部欲しくない。自分には何もない。要らなくなった。
 生きる価値って、何だっけ。
 階段の途中の鍵のついた金属の柵を乗り越える。鞄は何処か途中で宙に放った。
 街を見下ろす。暗闇はあくまで暗い。夜の底は深く遠い。追い風が短い髪を揺らした。鼓動が速い。

「ご機嫌如何ですか。」
 後ろから低い、男の声がした。
 振り返ろうとしてよろめく。踏み外した途端に得体の知れない恐怖が意識の表層に浮かび上がった。空間が粘度を持ち、視界がゆっくりと歪む。
 それから、わたしの視界の端を黒いものがよぎった。落下していく感覚が消え、恐る恐る目を開けると、夜の闇と同じ色のスーツを着た男が自分を抱えている。男の足下には何もなかった。彼は浮いていたのだ。
「貴方は大事なお客さまだ。死なれては困るのです。」
宙を蹴るとそこに反発する力が働くかのように、男は空中を移動した。それから、わたしを屋上に降ろした。力なく座り込んだわたしに男は続ける。
「貴方は誰かに必要とされたかったのではありませんか?」
頭がぼんやりする。わからない。
「私は最近ビジネスを始めたのですよ。一つ、取引をしませんか。」
「取引……?」
「ええ、私はあなたに『生きる価値』を差し上げます。そのかわり、貴方のものを一つだけ貰います。それとも、死ぬのが怖いという理由だけでいつもの毎日に戻りますか?」
男は私を見下ろしたままさらさらと喋る。聞いていてもさっぱり何のことか分からないが、今更失くすものもない。差し出された契約書に拇印を押して、わたしは男と取引をした。
「では、わたしの指示に従ってください。国道沿いを三十分歩けば大通りに出ます。タクシーを見つけて何が何でも家に帰ってください。」
 この人は何を言っているのだろう、と思った。帰ったところで休む暇などないのに。でも、もう全部どうでもいいのだから、言うとおりにしてみるのもありかもしれない。わたしは鞄を拾い、男の言葉に従って家路を急ぐ。わたしの不法侵入に気付く人はいなかった。通りでもすぐにタクシーが見つかった。
 タクシーから降りて歩いていると、いつの間にか痩せた子猫が後をついてくる。何となく気になって放っておけず、家に連れて帰ることにした。里親が見つかる間だけのつもりで。
 翌日、会社をクビになった私は現在就職活動をしている。猫の引き取り手は見つからない。それどころか猫は懐いて離れない。わたしは自分が要らないけれど、猫にとっては要るらしい。就活は上手くは行かないがせめて猫の餌代くらいは稼がなければ。

彼女が去った屋上で、男は携帯電話を取り出した。
「もしもし。わたしだ。君に仕事が見つかった。明後日****株式会社に行って話をするといい。事務職にありつけるはずだ。・・・・・・ああ、そうだ。対価としてこれから五年間、給与の五パーセントを毎月送金してくれ。不労所得っていうのも悪くないからな。」





生きる価値って何でしょうね? 誰かに必要とされるのは必要なことでしょうか。在っても良いし、無くても良いかな。ぼんやりとそんなことを考えながら書いておりました。少し重くなりすぎた気がします。

遅いクリスマスの話

『島取り』からちょうど1年後に書いた作品です。真夏に真冬の話を書くのは大変でした。おかげでよくわからない作品に仕上がっております。こちらもZ会の交流誌に掲載されたのですが、こんなおかしな作品で良かったのでしょうか……。





 気象庁がトウキョウに十センチの積雪を観測したころ、私は制服の上にコートを着て、マフラーを巻き、普段より少し軽いかばんとお気に入りの傘を持って外へ出かけました。

 いつもより三十分早く出て余裕を持っていくように言われたのに、私は三十分早く出て、公園への寄り道を決めました。家のすぐ近くの公園は白く深く覆われ、いつもよりいくらか落ち着いて見えます。

 雪の上には足跡ひとつなく、辺りは静けさに包まれていました。雪は音もなく降り続けています。一歩踏み出すと深く沈み込んで、私はその下の地面の硬さを知りました。

 カラフルな遊具は一面の白の中で色をのぞかせていて、木々にも雪が積もり、地面にはならされたように均一に積もっています。きれいだな。この景色は知っている気がする。記憶の中に似たものがあるような……。

 こんなに雪が積もったのを見たのは初めてなのに、なぜ知っている気がしているのでしょう。しばし考えて、私は気づきました。

 これは、まるで、クリスマスケーキだ。

 遊具はまるで飾りの果物や、ろうそくや、砂糖菓子に似て、木々は粉砂糖のかかった飾りみたいです。

 私は自分の考えに呆れて、思わず笑みを浮かべていました。確かにこんなに積もった雪は初めてで、すごいと思うにしてもクリスマスケーキみたい、だなんて。年もとっくに明けているのに何を言っているんだろう。

 クリスマスは楽しかったなぁ。……今年は初めてサンタクロースが来なかったっけ。もう、「大人」だと思ったのか、それとも「悪い子」だと思ったのか、どっちだろう。

 ずっと公園に一人たたずみ、そんなことを考えていると、いつの間にか私の肩にも雪が降り積もっていました。ずっとそこに立っていたのです。私も砂糖菓子の一つになってしまうのでは……。ふと、いやな想像が脳裏をよぎりました。

 そのときでした。

「メリークリスマス。」

ふいに耳元でささやかれたような気がしました。振り向いても誰もいません。なんだか空恐ろしくなって、早くこの場を離れようと思いました。雪に埋まって足がうまく動きません。しゃん、しゃん……とかすかに鈴の音が聞こえていました。

 私は駅へ走りました。早く早く雪のないところへ、人のいるところへ。ビルは白くなって、看板がカラフルな飾りになって、街路樹には粉砂糖がかかり、人のまばらな朝七時。耳の奥で鈴の音は鳴り止まないままでした。

 やっとの思いで駅に辿り着くと、人もいつものようにいて、外のことなどまるで知らないようでした。指先の冷たさがじんわりと痛みとなって伝わってきました。寒さの中必死で気付かなかっただけで、息も上がっていたし、指先も冷たくなっていたのです。

 電車に乗ると外の景色も、それをクリスマスケーキみたいだと思ったことも、まるで嘘みたいで、私はかばんから本を取り出して読んでいました。電車の中は守られていて、別の世界でした。

 学校の周りは洒落た建物が並ぶ住宅街です。それらが雪で飾られたらどんなにきれいだろう。でも、見てはいけない。砂糖菓子の一つになってしまう。

学校まで走りました。聞こえるはずのない鈴の音は聞こえるはずがないのです。クリスマスにはまだ早すぎて、もう少し遅いのですから。息を切らして、指先を冷たくして、それでも校門に辿り着ければこちらの勝ちです。

 ……そのはずでした。

 一番大きくて、広い地面も木もあって、クリスマスケーキにぴったりの建物は何でしょうか。

 私は、学校だと思います。

 真っ白な雪に支配された景色に心を奪われて、私は立ち尽くしていました。指先が冷たく染まっていきました。

 「メリークリスマス。」

 それからのことは覚えていません。気がつけば教室で自分の机の前に立っていて、机の上にはプレゼントが置いてありました。

誰がこんな時にプレゼントを……。包装紙を破らないように開けると、薄桃色の手袋でした。そういえば私は手袋を持っていませんでした。指を切るような痛みもそのためです。

添えられた真っ白なカードに書かれた文字は――Santa。

――君は「悪い子」じゃないよ。ただ、君は今あるものにすごく満足しているように見えて、何をあげたらいいか最後まで決まらなくてね。だから今日は君のための雪だよ、手袋をして楽しんでおくれ――。

そんな声が聞こえているように感じたのは気のせいでしょうか。鈴の音ははじまりと同じようにいつの間にか鳴りやんでいました。

これが私の遅いクリスマスの話です。 


島取り

 手始めにお気に入りの作品を。

 この作品は中学2年生の夏に書いたもので、たった2000字に1か月以上かけたのを覚えています。総編集時間は17時間以上にも上りました。その甲斐あってか、Z会の交流誌にも掲載され、図書カードも頂きました。(*'▽')

 もう3年も前になるのですね。そろそろまたこういう話をこれ以上のクオリティで書きたいものです……。



 




 島取り、という遊びをご存じだろうか。まずいくつか並べた椅子・机の上に2つのチームに分かれて乗る。それから、2チームの代表がじゃんけんをし、勝った方が負けた方の机を一つずつ減らしていく。机・椅子から一人でも落ちたら負け、という遊びだ。

 ただの遊びだといえば、その通りだ。しかし、そのただの遊びで、とある中学生たちは火花を散らして競い合っていた。

 きっかけは、担任教師の一言だった。

「今日、授業したくないなー。誰か授業したい人、いるー??」

その日は午前中テストだったから、終わってもこれから始まる採点の苦労を思うとそんな言葉も出てくるのなのだろう。本来はそれでも授業をしなくてはならないが、テスト疲れでやる気がないから異を唱える生徒もない。

すると、一人の生徒が周りをぐるりと見渡して手を挙げると、自信たっぷりに言った。

「先生、オレがやります。」

いいよ、と担任は手をひらひらさせて適当な返事をしたが、内心は「やっぱり来たか。面白くなるぞ。」と彼の行動に期待していた。彼はクラスのムードメーカーで学級委員だ。

 彼は前に出て黒板に書かれたテストの時間割の「社会」の文字だけを残して消した。それから大きな字で「源氏vs平氏 水島合戦」と書いた。そして教卓に手をついて言った。

「じゃあ島取りをしましょう!」

彼はそう言うと、自分の言い放った言葉を味わうようににやりと笑った。

「おおっ、いいぞー!」 「賛成―!」

次々と歓声が上がる。多数決を取る必要がないのは明らかだった。眠いだのだるいだの帰りたいだのさっきまでそれぞれ勝手なことを思っていたみんなの心は一つになっていた。

 「よし、なら女子対男子で勝った方が掃除免除ってことにしよう。」

それまで黙っていた担任も口を挟んだ。

 「掃除免除」という言葉に場は一気に盛り上がり、準備はあっという間に進んだ。全員が机に上がると、少年は叫んだ。

「これより女子対男子、源平合戦を開戦する!!」

 

 こうして島取りが始まった。

 男子チームは思い思いに座っている。一方、女子チームがバランスよく座っている。それぞれ考えがあるようだ。

 一回目、二回目、四回目と男子側がじゃんけんに勝つ。しかし、もともと散っていた女子側は余裕の笑みさえ浮かべている。そしてじゃんけん女王の異名を持つ者が立ち上がった。女子側の反撃は始まった。

 みるみるうちに男子側の机が減っていく。

男子側の勝ちの頻度もどんどん減っていく。

すいすい逃げ回り、臨機応変に難を逃れてきた男子達だが、次第に追い詰められていった。

 そして、じゃんけん女王がとどめを刺した。

あまりの人口密度に一人の男子生徒がぐらりとよろける。それは、一瞬の出来事だった。

「ああっ!落ちたぞアイツ!」

女子側の勝利が決まった瞬間だった。わぁっと喜びの声が上がる。

 しかし、授業時間を使った禁断の島取りがこのままただで終わるはずがなかったのだ。

 ガラッと戸を開ける音がした。その場にいた全員がとっさに振り向いた。それは学年主任だった。ちょっと騒ぎすぎただろうか。

「君たちは何をやっているんだ?」

「………。」

冷たい沈黙が訪れた。

「先生、何ですか、これは?」

「あの、これは、その、ええと……。」

いい答えが浮かばず、担任は口ごもった。「先生、これは源平合戦の再現です。」

答えたのは例の学級委員の少年だった。

「水島の合戦で平氏は舟同士をつけていました。」

説明しながら少年は女子側を指さす。

「でも木曾義仲率いる源氏は舟を離していたのでこのように舟から落ちて溺れた人もいました。」

少年は次に男子側と落ちた生徒を指さした。

「…とまぁ、みんな源平合戦についてよく知らないので、このような活動で理解を深めることになったのです。」

少年は歯切れよく話していたが、握りしめたこぶしが緊張のあまりふるえていた。

 学年主任はぐるりと教室を見渡してにっこり笑った。

「先生、二年C組は良いクラスですね。」

学年主任は、教室を後にした。

 

 その後はというと、当然女子は掃除を免除され、少年は「クラスの(担任の)危機を救った」として担任から表彰された。落ちた男子生徒も彼の説明を助けたということでどういうわけか掃除免除になった。それからしばらく、少年の活躍は語り継がれたのだった。






*因みに、学年主任の先生が来る前のところまでは実話です。楽しかったなぁ、2年C組。担任も面白い人でした。先日世界一周に出掛けてしまいましたが。

まえがき

 こんにちは。若しくは初めまして。 七辻雨鷹(ナナツジウタカ)と申します。将来の夢は児童文学作家になることです。

 小説や童話を書きます。そう呼べる水準に達しているかどうかは些か疑問が残りますが。
 ここではそのうちの幾つかを公開します。

 わたしは書くことが好きだから、書いています。好きでやるのだから自己満足で良いという考え方もありますが、生憎、わたしは好きなことだからこそ本気でやらなければ気が済みません。好きこそ物の上手なれ。

 そういうわけで、感想・批判・アドバイス等、何でも、メール(utaka.nanatsuji@gmail.com)、コメント欄、その他SNS受け付けております。よろしくお願いします。

最後に、わたしが文学部に迷い込んだきっかけの言葉を。

「ようこそ、カオスへ。」