形のない足跡

七辻雨鷹(ナナツジウタカ)。マイペースで子供っぽい人のまた別のお話。「ようこそ、カオスへ。」

島取り

 手始めにお気に入りの作品を。

 この作品は中学2年生の夏に書いたもので、たった2000字に1か月以上かけたのを覚えています。総編集時間は17時間以上にも上りました。その甲斐あってか、Z会の交流誌にも掲載され、図書カードも頂きました。(*'▽')

 もう3年も前になるのですね。そろそろまたこういう話をこれ以上のクオリティで書きたいものです……。



 




 島取り、という遊びをご存じだろうか。まずいくつか並べた椅子・机の上に2つのチームに分かれて乗る。それから、2チームの代表がじゃんけんをし、勝った方が負けた方の机を一つずつ減らしていく。机・椅子から一人でも落ちたら負け、という遊びだ。

 ただの遊びだといえば、その通りだ。しかし、そのただの遊びで、とある中学生たちは火花を散らして競い合っていた。

 きっかけは、担任教師の一言だった。

「今日、授業したくないなー。誰か授業したい人、いるー??」

その日は午前中テストだったから、終わってもこれから始まる採点の苦労を思うとそんな言葉も出てくるのなのだろう。本来はそれでも授業をしなくてはならないが、テスト疲れでやる気がないから異を唱える生徒もない。

すると、一人の生徒が周りをぐるりと見渡して手を挙げると、自信たっぷりに言った。

「先生、オレがやります。」

いいよ、と担任は手をひらひらさせて適当な返事をしたが、内心は「やっぱり来たか。面白くなるぞ。」と彼の行動に期待していた。彼はクラスのムードメーカーで学級委員だ。

 彼は前に出て黒板に書かれたテストの時間割の「社会」の文字だけを残して消した。それから大きな字で「源氏vs平氏 水島合戦」と書いた。そして教卓に手をついて言った。

「じゃあ島取りをしましょう!」

彼はそう言うと、自分の言い放った言葉を味わうようににやりと笑った。

「おおっ、いいぞー!」 「賛成―!」

次々と歓声が上がる。多数決を取る必要がないのは明らかだった。眠いだのだるいだの帰りたいだのさっきまでそれぞれ勝手なことを思っていたみんなの心は一つになっていた。

 「よし、なら女子対男子で勝った方が掃除免除ってことにしよう。」

それまで黙っていた担任も口を挟んだ。

 「掃除免除」という言葉に場は一気に盛り上がり、準備はあっという間に進んだ。全員が机に上がると、少年は叫んだ。

「これより女子対男子、源平合戦を開戦する!!」

 

 こうして島取りが始まった。

 男子チームは思い思いに座っている。一方、女子チームがバランスよく座っている。それぞれ考えがあるようだ。

 一回目、二回目、四回目と男子側がじゃんけんに勝つ。しかし、もともと散っていた女子側は余裕の笑みさえ浮かべている。そしてじゃんけん女王の異名を持つ者が立ち上がった。女子側の反撃は始まった。

 みるみるうちに男子側の机が減っていく。

男子側の勝ちの頻度もどんどん減っていく。

すいすい逃げ回り、臨機応変に難を逃れてきた男子達だが、次第に追い詰められていった。

 そして、じゃんけん女王がとどめを刺した。

あまりの人口密度に一人の男子生徒がぐらりとよろける。それは、一瞬の出来事だった。

「ああっ!落ちたぞアイツ!」

女子側の勝利が決まった瞬間だった。わぁっと喜びの声が上がる。

 しかし、授業時間を使った禁断の島取りがこのままただで終わるはずがなかったのだ。

 ガラッと戸を開ける音がした。その場にいた全員がとっさに振り向いた。それは学年主任だった。ちょっと騒ぎすぎただろうか。

「君たちは何をやっているんだ?」

「………。」

冷たい沈黙が訪れた。

「先生、何ですか、これは?」

「あの、これは、その、ええと……。」

いい答えが浮かばず、担任は口ごもった。「先生、これは源平合戦の再現です。」

答えたのは例の学級委員の少年だった。

「水島の合戦で平氏は舟同士をつけていました。」

説明しながら少年は女子側を指さす。

「でも木曾義仲率いる源氏は舟を離していたのでこのように舟から落ちて溺れた人もいました。」

少年は次に男子側と落ちた生徒を指さした。

「…とまぁ、みんな源平合戦についてよく知らないので、このような活動で理解を深めることになったのです。」

少年は歯切れよく話していたが、握りしめたこぶしが緊張のあまりふるえていた。

 学年主任はぐるりと教室を見渡してにっこり笑った。

「先生、二年C組は良いクラスですね。」

学年主任は、教室を後にした。

 

 その後はというと、当然女子は掃除を免除され、少年は「クラスの(担任の)危機を救った」として担任から表彰された。落ちた男子生徒も彼の説明を助けたということでどういうわけか掃除免除になった。それからしばらく、少年の活躍は語り継がれたのだった。






*因みに、学年主任の先生が来る前のところまでは実話です。楽しかったなぁ、2年C組。担任も面白い人でした。先日世界一周に出掛けてしまいましたが。