形のない足跡

七辻雨鷹(ナナツジウタカ)。マイペースで子供っぽい人のまた別のお話。「ようこそ、カオスへ。」

線香花火からの手紙

拝啓
 残暑の厳しい日が続いていますが、お変わりありませんか。わたくしはあなたの家の近くで売られている線香花火です。このまま夏が終わってしまっては困ると思い、お手紙を差し上げました。
 というのも、わたくし売れ残ってしまえば、処分されるか、値引きされて雑多に積まれるかどちらかなのです。それはとても御免です。線香花火である以上、闇に火花を咲かせて散りたいではありませんか。
 人間の世界では、どれだけ長く線香花火の火の玉を落とさずにいられるかを競うようですね。長く、かつ華やかに、なんて、まるで人間の求める人生そのもののようにも思えます。しかし、線香花火界では少し違います。わたくしたちにとって大事なのは、いかに人間の期待を裏切るタイミングで火の玉を落として、あっと言わせることです。一生に一度、火がついた時が勝負で、鮮やかに人を驚かせることが粋なのです。だから、小さな火花ですぐに消えてしまう線香花火も決して劣っているわけではないのですよ。
 どうですか、あなたもそんな生き方をしてみませんか。一生に一度、火がついたときを逃さず、長く華やかでなくとも、人をあっと言わせるような生き方。悪くないと思いませんか。
 わたくしもそんな生き方をしたいのです。どうです、線香花火、一本買って行かれませんか。

                敬具