形のない足跡

七辻雨鷹(ナナツジウタカ)。マイペースで子供っぽい人のまた別のお話。「ようこそ、カオスへ。」

2017-01-01から1年間の記事一覧

ターミナル(詩)

優等生はやめたというより所詮は偽物だったそれなら人間をやめたいなりたいものもないけれど 「頑張りなさい」「やればできる」追い風に転んで 空を見る迫り来る雨雲 青空は向こう側にしかないの? 上手く歩けなくて 世界が回って膝を抱えていたら 遠心力に…

幽霊からの手紙

拝啓 暦の上ではとうに秋ですが残暑に陽炎が揺らめいています。いかがお過ごしでしょうか。はじめまして、私は幽霊です。名は河原健人といいます。普段はあなたのご近所の団地の一室に居りますが、そろそろ夏も終わりですので最後に涼しい手紙でもどうかと思…

線香花火からの手紙

拝啓 残暑の厳しい日が続いていますが、お変わりありませんか。わたくしはあなたの家の近くで売られている線香花火です。このまま夏が終わってしまっては困ると思い、お手紙を差し上げました。 というのも、わたくし売れ残ってしまえば、処分されるか、値引…

八.美冬と真雪-8732

いつの間にか真雪は美冬を見ていた。そこにいる「美冬」は真雪ではなく美冬だった。真雪は宙に浮かぶ光の玉に姿を変えていた。「あたしもう行かなきゃならないんだけど、一緒に行く? ちょっと早いけど。」「いや、息上がっちゃって、ゆっくり歩きたいから先…

七.旅人算-8732

家族には感謝を伝えることができた。残るは咲季だ。明日は先に行くと言っていたから、咲季は恐らく八時に登校する。家から学校までは四十分かかるから、七時十分には家を出よう――しかし、「美冬」が起きたのは七時だった。美冬は低血圧で朝が苦手だったのだ…

六.薔薇の花束

渋谷で乗客の大半が降り、真雪は空いた席に座った。ポケットからスマートフォンを取り出す。手帳型ケースのカード入れには図書カードが入っている。それを取り出すと、一緒に付箋紙が出てきた。青い字で「3331」と書かれている。真雪は迷わず、パスコー…

五.小宮咲季-8732

講義室を出て階段を下りる。普段は白く色味のない校舎の階段や廊下も色とりどりの装飾がなされている。生徒たちは皆、高揚と期待の混じった予感を共有していた。そわそわした空気が校舎全体に充満している。 小宮咲季。ほとんど会ったことはなかったが、美冬…

四.現存-8732

美冬のやり残したこととは一体何なのだろう。手掛かりと呼べるものは手元のスマートフォン以外に何もない。他人のスマートフォンを覗くのは躊躇われるが、美冬はわざわざパスコードを教えたのだから構わないだろう。スマートフォンにはメモやLINEなど生…

三.花本美冬-8732

「花本……おい、花本。」まだぼんやりとしたまま目を開けると、男子生徒が立っていた。日に焼けた肌と短く切った髪はいかにも活発そうな感じがする。額に滲んだ汗を拭い、彼は無言で何かを突き出した。ミルク味のアイスバーだ。戸惑い、受け取り損ねていると…

二.交点-8732

夢を見た。 学校の5階の廊下を歩いていた。どこへ行くのかはわからない。しかし、行かなければならないという気持ちがあった。角のエレベーターホールの前、窓のそばに美冬が立っていた。白い無地のワンピースを着て、胸元まである髪を下ろしている。「真雪…

一.花本真雪-8732

壁紙の白が明るくなるのを眺めていた。目はとうに覚めている。夜明けと共に目が覚める真雪の朝は早い。家の中は物音一つしないが、外からは新聞屋のエンジン音が聞こえていた。いつもならすぐに起き上がって着替えるところだが、そういう気分でもなかった。…

8732をカクヨムで

26日(水)から2日に一度の更新で、小説投稿サイト「カクヨム」にて、小説『8732』の連載をします! 読んでくれると嬉しいです。 よろしくお願いします。 https://kakuyomu.jp/works/1177354054883700620