形のない足跡

七辻雨鷹(ナナツジウタカ)。マイペースで子供っぽい人のまた別のお話。「ようこそ、カオスへ。」

2017-08-01から1ヶ月間の記事一覧

八.美冬と真雪-8732

いつの間にか真雪は美冬を見ていた。そこにいる「美冬」は真雪ではなく美冬だった。真雪は宙に浮かぶ光の玉に姿を変えていた。「あたしもう行かなきゃならないんだけど、一緒に行く? ちょっと早いけど。」「いや、息上がっちゃって、ゆっくり歩きたいから先…

七.旅人算-8732

家族には感謝を伝えることができた。残るは咲季だ。明日は先に行くと言っていたから、咲季は恐らく八時に登校する。家から学校までは四十分かかるから、七時十分には家を出よう――しかし、「美冬」が起きたのは七時だった。美冬は低血圧で朝が苦手だったのだ…

六.薔薇の花束

渋谷で乗客の大半が降り、真雪は空いた席に座った。ポケットからスマートフォンを取り出す。手帳型ケースのカード入れには図書カードが入っている。それを取り出すと、一緒に付箋紙が出てきた。青い字で「3331」と書かれている。真雪は迷わず、パスコー…

五.小宮咲季-8732

講義室を出て階段を下りる。普段は白く色味のない校舎の階段や廊下も色とりどりの装飾がなされている。生徒たちは皆、高揚と期待の混じった予感を共有していた。そわそわした空気が校舎全体に充満している。 小宮咲季。ほとんど会ったことはなかったが、美冬…

四.現存-8732

美冬のやり残したこととは一体何なのだろう。手掛かりと呼べるものは手元のスマートフォン以外に何もない。他人のスマートフォンを覗くのは躊躇われるが、美冬はわざわざパスコードを教えたのだから構わないだろう。スマートフォンにはメモやLINEなど生…